病気は一つじゃない!
学生時代に病気の勉強をするとき、「さまざまな症状から考えられる病気は何か?」と一元的な考え方をしていた。病気というのは常に一つだと無意識で思い込んでいたのだ。
病理学の実習で難しいテーマがだされた。これは、患者の解剖所見やカルテなどから、その患者が何で死んだのか、どういう病気だったのかを推理する実習である。一人が答えるのではなく、グループで頭をつきあわせ、いろいろと考える。この病気じゃないかと推論すると、想像できる病気について徹底的に調べる。すると、この部分の症状がどうしてもあわない。別の病気を考える。しかし、今度もこの症状があわない。どうしてもしっくりくる病気が思いつかない。誰が言ったかは覚えていないが、Aという病気と、Bという病気が一緒に存在していたと仮定すれば、すべてがすっきりあてはまる。まさしく盲点だった。病気は一つで問題がだされるはずだと思い込んでいたのだ。考えてみれば作られた問題ではない。目の前のお亡くなりになった本物の人間をみて推論しているわけだ。病気を一つしかもっていない患者なんて、そうそうはいないのだ。
臨床医として経験を積むにつれ、つねに複数の病気を想定して患者をみるようになった。
特にアレルギーの病気には多い。アレルギーの体質というのは、さまざまな病気を同時に出現させる。アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、喘息、アレルギー性結膜炎。病気が単独ででてくることより、複数の病気が最初からある場合が多いのだ。
また、風邪もやっかいなものである。風邪は万病のもと。このような言葉があるように、風邪がさまざまな病気を引き起こすのだ。
たとえば、アレルギー性鼻炎の人が風邪をひくと、副鼻腔炎(細菌性)を併発する。さらにウイルスをきっかけに、咳喘息が起こってくる。高齢の人であれば、細菌性気管支炎の合併もあるし、もともと逆流性食道炎の合併もある。自分の診断が、「上気道炎(風邪)+アレルギー性鼻炎+急性副鼻腔炎+逆流性食道炎+咳喘息」です。このような診断は珍しくない。
例えば咳で受診した場合、咳の原因になる病気は一つだと思い込んでいる医者は多い。喘息の診断のもと、喘息の治療をがっちりしているが咳がよくならない。このような場合には、副鼻腔炎や逆流性食道炎の合併を疑う。喘息であるというところはいいのだが、咳の原因は複合的なので、喘息の治療だけでは咳が治まらないということになる。
1人の人間を見たとき、複数の原因を考え、それらを総合的に治療をしていく。このような努力が常に必要になる。原因は一つだと決めつける医者も多いが、クイズじゃないんだから解答は一つなどとそんなに簡単なものでもない。