視覚障害者の診療
ときに、目の見えない人が受診してくる。眼科に比べればはるかに少ないとは思うが、何人かはまったく目の見えない患者が受診してくる。
クリニックに来院すること自体が大変なので、ガイドヘルパーを頼んで連れてきてもらうことが多い。ボランティアの一つである。診察室に連れてくるまでが、その人たちの役割なのだろう。耳鼻咽喉科の診察椅子に座ったときに、その人たちは診察室の外にでて、そちらで診療の終わるのを待っている。
ガイドヘルパーの人たちは、クリニックにつれてくるまでの道中でも、目に見えるものをその視覚障害者に伝えるそうだ。たとえば、「前から車が来ました。」とか「雲がただよってきました。」などの風景の描写を教えるのも、一つの役割なのだそうだ。普段外出のできない人たちにとっては、外の風景がどうなのであるのか、それを伝えてあげることも大切な役割なのであろう。
視覚障害者が診察イスに座ったとき、自分の話す内容も少し違う。実況中継のように、言葉で細かく説明しなければならないからだ。目の見える人には当たり前のことであっても、見えない人には言葉で説明するしかない。このため、自分のしゃべりもとても多くする。たとえば、「椅子があがります。左に回転します。今から耳をみますよ。耳の中を吸引しますよ。」という風に、見ればわかるだろうということについても、事細かな口での解説が必要になる。この解説には少しコツがあるかもしれない。意識しないと、普段の自分の診察になってしまうからだ。