食前に薬をのませる意味
最近、けっこう難しいことばかり書いていて、ついてこられない人も多いと思うので、わかりやすい話を書きます。
具体例を挙げて説明するとわかりやすいので、抗生剤クラバモックスの話を書きます。
僕自身、クラバモックスをとても愛用しています。いろいろな理由があるのですが、これは本質からずれるので、割愛します。このクラバモックスという薬は一日2回でいいのですが、食前投与なのです。食前というのは、食事の30分以上前には飲んでくださいと言うことです。抗生剤のほとんどは、食後投与になっていると思いますが、この薬は珍しいことに食前に飲むのです。
食前に飲む理由は一つだけ。胃の中に食べ物が入っていると、薬の吸収に影響を与えたというデータがあるからです。食後と食前と比べてみて、食後だと薬の吸収が悪いと結果がでたものは、食前に飲むようにとなるわけです。食後に飲んだから危険だと言うわけではなく、少し効果が落ちるということなのです。
クラバモックスを食後と処方していたら、薬局から「処方が間違っている」と何度も電話がありました。添付文書によると食前に飲ませる薬だと言うことです。鼻の他の薬は食後でOKですが、クラバモックスだけは食前投与ということです。たしかに、食後に吸収率が落ち、だから食前に飲ませる。薬剤師の言うのはもっともなわけです。
しかし、食前にきっちり子供に薬を飲ませられる親御さんがどれだけいるでしょうか。たいていはご飯を食べさせたあとに、「しまった薬を飲ませるのを忘れた」ということになってしまいます。他の薬がほとんと食後に飲ませることになっており、食前に飲ませる薬は本当に少ないですから。飲まし忘れた親御さんが次に考えるのは、「忘れたからしかたない。薬をのませるのをやめよう」と言うことだと思います。薬をのませるのを1回とばされてしまう。これでは本末転倒です。食後に飲ませても、大方は吸収されますが、飲ませなければ薬の吸収はゼロになってしまうからです。食後であっても飲ませないよりは飲ませたほうがはるかにましなわけです。
薬をきちっと飲ませることを考えれば、食後のほうがはるかにましなのです。食前にこだわれば、服用のコンプライアンスがかなり落ちることが予想されます。それを考慮すれば、クラバモックスは食後に投与にしたほうがましなんじゃないかと思いますけど、添付文書がそうなっている以上、薬剤師は食後投与を認めないんですよね。医者は添付文書を参考資料にはしますが、絶対的なものだとは思っていません。必要あれば無視してもいいものと思います。これは医者の処方裁量ですね。ところが、薬剤師にとっての添付文書は憲法のようなものなのでしょう。それを守らなければ、ひどい目にあうとでも思っているのかもしれません。医者が目指すのは治癒させることですが、薬剤師の目指すのは薬を規則通りに飲ませることなのかな。そんな差異を常に感じています。