検査と診断率
検査をすればするほど診断率があがる。しかし、検査をすればするほど患者さんの金銭的負担もかかる。この塩梅が難しい。
たとえば、「昨日より咳が出て熱がでました。」と患者が来る。のどなどの主なところをみるだけで、風邪と診断し薬をだす。ごく普通の医者の対応である。ところが、1週間後咳がよくならないと再受診をする。あきらかにひどい。胸のレントゲンをとったら、肺炎が見つかった。最初から肺炎だったのかもしれない。
このとき、患者さんは思うはずだ。「肺炎の見落としではないか。」と。たしかに、初日から胸のレントゲンをとっていたら、初診時より肺炎の診断がついたかもしれない。このような見落としをなくすためには、咳が出て熱が出る患者全員にレントゲンをとらざるをえないだろう。患者さんはそうすればいいじゃないかと思うかもしれない。しかし、9割以上の人は風邪なのだ。ほとんどの人にとっては、レントゲンは余計な検査なのだ。検査をすれば見落とさなくなるかもしれないが、全員にお金の負担をかけることになってしまう。無駄な検査をたくさんすることになる。
医者の頭の中はこうである。次回受診したとき、治っていなかったら検査をしよう。多くは治ってしまって再診することはないだろう。治らないで、再受診してきた場合は検査をする。これできちんと診断できるのだから、それでいいだろう。ところが、患者は、初診ですべての病気を見抜けなければおかしいと思う。見逃しを許さないのだ。
見逃してはならない病気も存在する。それは命にかかわるようなものである。自宅に帰したら死んでしまった。このような事態は絶対にあってはならない。このため、危ないと思えば、最初から検査をする。命に係わる病気だけは見落としてはならないからだ。
逆に危なくないような病気は見逃してもかまわない。いや、初診で診断する必要すらないと思っている。
同じ初診でも、昨日から症状がありますというのと、1か月前から症状がありますというのでは話が全然違う。1か月前から症状があるのだけど、他の医療機関で診てもらってもよくならないから当院を受診しましたという患者がたくさんくる。そのような患者には最初からでもきちっと検査をし、できるだけ診断をきっちり行う。他の医者が見落としやすいポイントがあるから、それを考えながら、検査の結果も確認し、推論を組みたて、結論に至る。検査をすればお金もかかるが、1か月もよくならない患者はそれなりに精査しなければなるまい。