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大人の喘息性気管支炎(仮説)

[2018.10.08]

近くに呼吸器科の医者がいないことより、咳がひどい患者を見始めた。きっかけは、呼気NO検査機器を導入したことだった。次から次へと受診する咳のひどい患者の多くが喘息性の炎症であることに気づき、気がつけば一日4~5人は喘息性の咳の患者をみるようになった。そのような人たちの多くはステロイドの吸入薬で劇的に治っていく。僕自身は「咳喘息」という病名で説明してきたが、呼吸器科医の言っている気管支喘息とは、まったく違うものであることに気づいているが、うまく説明できないできた。最近、病気をどうとらえるかに展望が見てきたので、これを機会に説明しておきたい。かなりの長文にはなるが、ひどい咳をみるためのエッセンスがこの記述につまっている。

小児科領域には喘息性(様)気管支炎という病気がある。小児(特に幼児以下)は、気管支がとても細く、風邪などのウイルス感染をおこすたびに、気管支に炎症がおこり、気管支の内腔が狭くなる。このため、喘息のようにヒューヒューした喘鳴がでてくる。これがウイルス性の気管支炎なのか、喘息発作なのか、容易に区別がつかないために、喘息性気管支炎というどっちつかずの病名が使われている。大人の場合には、このようなことがなく、気管支炎、気管支喘息と、どちらかの病名で呼ばれることが多い。

僕自身、初期研修医の頃に、気管支喘息になった。突然発作が起こり、息ができなくなってくる。典型的な喘息発作である。お酒を一口でも飲むと喘息発作が誘発されるために、飲み会には必ず気管支拡張薬を持参していた。これを吸うと気管支が開き、喘息の苦しさから開放されるのだ。

10年前から、風邪のあとにひどい咳がでるようになった。昔のような息苦しさは無い。自分自身でも呼気NOをはかると、数値がとても高い。喘息性の反応である。咳だけだから咳喘息と言うべきなんだろうと思い、喘息用のステロイド吸入薬を使うようになった。

ここで疑問がでてきた。喘息の解説本などを読むと、咳喘息の2割は、気管支喘息に移行するから、きちっと治療しろと書いてある。咳喘息の延長に、気管支喘息があるという考え方なのだ。気管支のリモデリング説によれば、咳喘息を繰り返している間に、だんだんと気管支の内腔が狭くなって、本格的な気管支喘息に移行するのだという考えなのであろう。これが正しいとしたら、自分のようにもともと気管支喘息がある人間が、咳喘息になるというのは理解できない。

そこで考えたのは、気管支内腔が狭くなって息苦しさが発作的にでてくる気管支喘息と、咳しかでてこない咳喘息とはまったく違う病態なのではないだろうかということだ。気管支喘息というのは何らかの刺激で発作的に気管支が細くなって呼吸苦がでる状態。そして咳喘息とは、気管支粘膜の炎症によるものではないだろうか。いうなれば、気管支炎に近い状態。炎症による刺激で咳はでるが、気管支が細くなるわけではないので、呼吸苦は伴わない。どちらも共通していえることは、呼気NOがあがることより、好酸球性の炎症が起こっている。好酸球の炎症というのは言葉が難しいが、簡単に言えば、アレルギー性の炎症のことである。つまり、どちらもアレルギー性の炎症がからんでいるが、気管支が細くなる発作が気管支喘息、炎症により咳反射だけが強くなったのが咳喘息。

呼吸器科の書物によれば、咳喘息の定義として、最低3週間は咳が続くこととある。それに痰がほとんどでないと書いてある。風邪のあとのひどい咳は、咳喘息の定義からかなりはずれしまう。一つは痰がかなり多いことと、3週間も龍前に、自院では診断せざるを得ないからだ。呼吸器科の医師が言う咳喘息と、目の前で咳が苦しいと訴える患者は、そもそも同じものではないのかもしれない。そう考えると、咳喘息というのは、無理があるのかもしれない。

風邪によるウイルスで、咳がひどくなるケースは昔から存在する。呼吸器科の分類では、「気管支炎」と呼んでいるかあるいは、「感染咳嗽」などと呼ばれることがある。ただ、気管支炎とは細菌性のことを指すことが多く、感染後咳嗽なんて、病名として成り立つのかどうかも疑問である。風邪のあとに咳が長引いた状態だというニュアンスなのであろう。

風邪の後にひどい咳の患者を調べてみると、呼気NOが高いことが多い。呼気NOとは喘息に共通する好酸球性炎症を示す指標である。さらに、吸入ステロイドが非常に効くことがわかっている。風邪などのあとに咳が長引くケースは、感染後咳嗽などとよばれているが、実は好酸球性の炎症を伴っているのがほとんどで、ステロイド吸入薬がきわめてよくきく。いわば、喘息(好酸球)性の気管支炎という説明がぴったりなのだ。今の呼吸器の病気分類にはこのような病名はなく、「咳喘息」という病名が一番ぴったりくるので、そのような説明をし続けている。

ウイルス感染で、気管支に炎症がおこり、それがけっこうひどい咳になる。好酸球炎症のからんだ、喘息性の咳である。それを咳喘息というと従来の咳喘息の概念とはあわなくなる。ここで大胆に言わせてもらえば、それを「喘息性気管支炎」と定義させてもらう。気管支炎なのだけど、喘息性炎症がからんだものという意味である。特に喘息という言葉を意識してつけるのは、喘息の治療がとても有効だからである。早期に咳をおさえるには、喘息であるというスタンスにのっとって、治療を開始するのが間違いがないのだ。「気管支炎」というスタンスになると、容易に抗生剤がだされてしまう。さらに、感染後咳嗽という病名でよばれると、風邪の後のせきはほおっておいてもいいのだと、苦しがる患者をそのまま放置することになりかねない。呼吸器専門医の中には、風邪による咳は自然に治るのだから、発症後4週間以内は、治療をする必要性もないんだと言う人すらいるのだ。たしかに、軽い咳であれば何もしないという選択も悪くはないだろう。しかし、咳がひどくて夜もまったく眠れないような患者をそんなに長期にほおっておけと言うのはどうかしている。

喘息の炎症反応がある気管支炎。もともとの患者のアレルギー体質を背景にでてくる。悪化の要因は風邪のウイルス感染である。RSウイルスが気管支炎を起こしやすいのはもちろん、典型的な風邪のウイルス、ライノウイルスなども気管支炎を起こしやすいという話もでてきている。たかが風邪と言うのかには気管支の炎症を起こすものもあるのであろう。もともともっていたアレルギー体質に、ウイルス炎症がかさなったときに、喘息性の炎症がひどくなる。これを喘息性気管支炎と呼ぼうと提唱しよう。半分喘息、半分気管支炎というものが、大人にも起こりえるのだ。

喘息性気管支炎の特徴

風邪のあとのひどい咳という形で受診してくる。粘性痰がとても多い。本質は気管支に痰がたまることであり、痰をだそうと苦しい咳がでてくる。気管支の炎症性のものは、普通の喘息よりもステロイド吸入が効きづらい。このため、当院ではけっこう多い量からだしている。喘息と同じ特徴をもち、夜間に悪くなり易い、気圧低下やさまざまな刺激(アレルギー性)が誘因になる。アレルギーの患者数がどんどん増えてきているので、このような喘息性気管支炎の患者も急激に増えている。喘息というスタンスで治療すると、咳がとてもよく抑えられるということが何よりも大切である。

追加

僕自身ここ1週間ぐらい、咳がひどい。台風の影響であろう。毎日ステロイド吸入を使っている。痰が気管支につまって苦しい感じがある。自然に咳がでる、思いっきり咳を自分でする。このような形で痰が外にでてくると、息苦しさも消え、すっきりする。まさしく、喘息性気管支炎の状態である。

注意

風邪の後に咳がひどい人がみんな喘息性気管支炎というわけではありません。副鼻腔気管支症候群もいるし、逆流性食道炎もいます。百日席も、肺炎もいます。呼気NOの上昇で、気管支喘息を疑い、上昇しないのに咳が続く場合は、他の病気がないかも視野にいれて検査をすすめます。開業医のスタンスは、正確な診断することではなく、咳をおさえるなど患者さんを治して楽にしてあげることです。よくなれば、診断が違っていても結果オーライです。喘息という視点でたつと、喘息治療でうまくいくことが多いのです。さらに今後の再発の可能性を患者さんに説明しておくと、すばやい対処も可能になります。

 

 

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