咳喘息試論
風邪のあとの止まらない咳、ひどい咳。とても多いのです。昔はこれを気管支炎と呼んでいたのです。もちろん、気管支炎という診断を否定するわけではないのですが、呼気NOを測定してみると、NOが高値がたくさんいるのです。NOが高いというのが、好酸球性の炎症(喘息の特長)を意味しますから、気管支炎(ウイルスや細菌の感染)というよりは、喘息に分類したほうがいいのではないか。これが僕の主張です。風邪のあとの咳がとまらないものに対して、咳喘息という従来の概念にある病名で呼んできました。
しかし、中にはNOがあがっていない患者もけっこういるのです。これを咳喘息と言ってしまっていいのだろうか。ここらへんがモヤモヤしていたのです。文献によると、NOがあがらない喘息もいるんだと書いてはあるのですが、どうにもすっきりしません。
自分の仮説になります。ウイルス性気管支炎と咳喘息は、きっちりと分けられるものではなく、どっちがどれぐらいの比重を占めているかは人により違うのではないでしょうか。ウイルスによる炎症90%、喘息性炎症10%の人もいます。このような人はNOがあがってこない。逆にウイルスによる炎症10%、喘息性炎症90%の人は、NOが非常に高値になりやすい。どっちの比率が高いかは人によって、あるいはその時によって違うのではないか。これが今考えている仮説です。そしてウイルス性の炎症の影響が強い人は時間がたつと、咳がおさまってくる。逆に喘息性炎症のひどい人は、なかなかおさまらない。3週間以上咳が続く場合を、従来の咳喘息と診断されるにいたるのでしょう。
ここらへんの仮説なり、理論は趣味の話なのでどうでもいいのです。大切なのは、「咳喘息」という視点で患者を診ることです。咳喘息であるから、喘息の吸入薬がとてもよく効きます。実際に患者さんに使ってみると、あれだけなおらなかった咳がウソのようによくなります。気管支炎という視点からみてしまうと、ほおっておいてもいい、あるいは抗生剤をだそうという発想になってしまいます。このような治療ではなかなかよくならないのです。喘息という視点で患者をみて治療をはじめる。これこそが非常に有効な手段なのです。
以前に講演をしたときに、本音を言ってしまったのですが、喘息かどうかの議論は専門の研究者がすればいいことで、僕はあまり興味がありません。目の前の患者のひどい咳を抑えるのには、咳喘息の視点で患者をみて、ステロイド吸入薬を使うことが大切である。咳に苦しんでいる患者を治すには、これが一番いい方法です。実際に自分で治療してみると、この方法ですぐに良くなってくるのです。1か月も咳がとまらなかった人が、1週間で咳がほとんど消えてしまう。そのことを評価すべきなのだと思うんですけど。
喘息の視点でみるようになると、今後も風邪をひくと同じようなことが起こりうるよと、患者さんに忠告してあげられます。喘息はアレルギーがからんでいて、アレルギーの体質は治らないのですから、容易に繰り返します。