ペニシリンの倍量投与
開業したころ、すでにペニシリン耐性菌が増えてしまい、抗生剤の効きがとても悪くなっていました。このため、ペニシリンの倍量投与をはじめました。
パセトシンで言えば、20~40mg/kg が、添付文書に載っている量です。それを60~80mg/kgの倍量で使いはじめたのです。記憶が定かではありませんが、おそらくこの量で使っていた医者は、周辺にはまったくいなかったと思います。15年ぐらい前の話です。処方せんが、周囲の調剤薬局に流れると、「薬の量が間違っている。」の問い合わせだらけでした。周囲の薬局から、「あそこの医者はおかしい。」と噂されていたのかもしれません。このように倍量で用いることが、今の耐性菌に効くと言うのは、自分のオリジナルではなく、すでに多くの文献で紹介されていたのです。それをマネして使っていたわけですが、このような先進的な処方をする医者はここらへんにはいなかったということでしょう。周囲の薬剤師からきわめて奇異な目でみられていたことは間違いありません。いつもいつも電話でクレームが来る薬局には、このような処方の論文を送りつけようかとも思っていました。
それから数年して、耐性菌用抗生剤クラバモックスが発売されました。この薬は助かりました。パセトシン換算で言うと、90mg/kg以上という、僕がやっている倍量処方よりもはるかに多いペニシリンが入っている抗生剤が発売されたのです。これにより、倍量以上のペニシリンを使いながらも、添付文書に違反せずに出せるようになったからです。それ以来、面倒な倍量投与はやめ、その多くにクラバモックスを処方するようになりました。点部文書通りですから、薬局からの問い合わせはなくなりました。
周囲の小児科医や耳鼻科医の処方せんを見てみるとわよくわかります。僕と同様にクラバモックスを出している小児科の先生が何人かいます。耐性菌のことをよく勉強しているなあと感心します。一方で、30mg/kgの少量で今も使い続けている先生もいますね。少なすぎて効かないだろうと思うのですが。