風疹が増えている?
風疹の数が急激に増えているとの報告がある。本当だろうか。この報道にはけっこう疑問に思っている。なぜかというと、風疹が急に増える理由がよくわからないからだ。
増えた一番の理由は、診断される数が多くなってきたからだろう。テレビで報道されることによって、患者さん自身が「風疹かもしれない」と医療機関を訪れることが多くなったのではないか。また、医者のほうも、「風疹が多いようだから、風疹には用心しないとならないな。」と思うようになった。このような背景から、以前だったら「原因はわからないけど、様子をみましょう。」と見逃されていたケースが、採血検査などで積極的に診断するようになったので、見つかる数が増えてきたのだろう。風疹はほとんど軽い症状で済んでしまうので、時間がたちさえすれば、すぐによくなってしまうのだ。見逃してもほとんど問題はない。ただ一点を除いては。つまり、風疹なんて毎年同じ数ぐらい出ていたのだろうが、今年になってきっちり診断しなければという意識が強くなってきたので、急に増えてきたかのように思われているのだろう。
では、なんで風疹が怖いのかといえば、妊婦さんがうつるとかなりの頻度で胎児に合併症を起こすからだ。これを先天性風疹症候群と呼ぶ。どれぐらいの胎児に影響を与えるのか、そこらへんのデータはまちまちですが、妊娠1か月以内に風疹に罹った場合、50%の子供に異常がでるとの報告もある。妊娠初期の場合には数十%もの可能性があるのだ。「妊娠中に薬を飲んだら危ないですか?」などの心配をしているどころではなく、はるかに危ないということになる。先天性風疹症候群の主たるものは高度難聴である。それ以外にも、目や、心臓の奇形もある。そのような子供を防ぐために、僕がまだ学生のころから、積極的に女性にワクチンをうち続けてきている。
ワクチン接種により、女性の風疹はかなり少なくなった。しかし、ワクチンを打てないような医学的理由のある人や、ワクチンをうっても免疫がつかない人も少しいて、そのような人たちは風疹に容易にかかってしまう。このため、風疹そのものを社会からなくそうとしているわけだ。
風疹を社会から抹殺するには、すべての人がワクチンをうてばいい。たとえば、天然痘はこの世界から消えてしまった。消えた理由はワクチンをみんながうつようになったからだ。風疹に関しては今は子供はみな定期接種でうつことになっているが、39歳以上の男性はワクチンを打っていない。ですから、風疹にかからず、ワクチンもうっておらずという男性は、風疹にかかる可能性がある。現在、風疹にかかる人のほとんどが中年期以上の男性だ。
先日、風疹と思われる若い男性が受診した。皮膚科に紹介し、そっちで確定診断をしてもらうようにしたが、おそらく風疹だろう。最終診断は、採血結果待ちです。風疹の報道があるから、きっちり紹介し調べてもらうことにしたが、それまでだったら様子をみているうちに、すぐに症状がおさまってしまっていたかもしれません。そのような見逃しは、風疹を周囲に広めてしまうことになりかねない。風疹である、あるいは風疹の可能性がたかいと本人に説明し、妊婦さんとの接触を避けるように指導しておくことがなによりも大切だ。この説明がなければ、奥さんが、または友人の妊婦さんと一緒に時間を共有してうつしてしまうかもしれないからだ。
39歳以下の男性であっても、その年代の多くは、麻疹風疹のワクチンを1回しかうっていない。1回だと免疫の持続が難しく、大人になったころに免疫が落ちてきて病気にかかってしまう場合がけっこうある。できれば、今の段階で追加接種しておけば、風疹ばかりではなく、麻疹(はしか)に関しても安心できるだろう。