扁桃摘出術
扁桃炎を繰り返すなどのいくつかの理由で、扁桃を手術でとりさってしまうのが、扁桃摘出術である。当院に通っている患者を、手術が必要と大病院に紹介することもよくある。その際に、手術をするかどうかは病院の医師の考え方次第ということになる。僕が必要だと思っても、病院の医者は必要でないというかもしれない。意見の統一が得られない場合は、結局患者がどっちを希望するかということになってしまう。
大病院に扁桃手術を目的で紹介する場合には、「はっきりと手術を受けたい」と言うようにと伝えている。病院の医師にとっては、手術をしたくないという心理が働くから、意思があいまいだと手術をしない方向にもっていこうとするからだ。医師の重い腰をあげるのは、患者がはっきりと手術の希望を伝えることである。それにブレがなければ、医師も期待に応えてくれる。
では、なぜ医師は扁桃摘出術が嫌いなのだろうか。理由は次のようなものである。
- 簡単な手術でおもしろみがない
- 重篤な合併症が起こりえる
- 術後に出血すると、真夜中でも医師が呼ばれるので、面倒
こんなところが医師の意見であろう。耳鼻科医になってはじめて覚える手術が扁桃摘出術であろう。大学病院であれば、初期研修医の担当する手術。上の医者にとっては何の面白みもないのだ。
扁桃摘出術による術後の死亡例はけっこうある。自分の知り合い医師でも、担当した患者がなくなってしまったケースがある。術後の観察などがとても大切になってくるのだ。
術後1週間は再出血の可能性があると言われている。僕自身も手術をしたあとには、その1週間は病院の近くから離れられなかった。耳鼻科医が一人しかいないので、遠くにはでかけられないのだ。出血したらすぐに止めに病院に向かわなければならないからだ。出血は容赦ない。深夜の2時にも呼び出される。このとき、行って止めなければ、患者が亡くなるかもしれない。そういう恐怖感にかられる。いつ出血するかわからないので、すぐに病院に駆け付けられるところにいなければならない。そういう覚悟が必要なのだ。
もっとも、自分は一人で耳鼻科診療を担当していたから、すべてが自分で背負わなければならなかった。都会の大病院であれば、複数の医者がいるので、交代で対応すればいいので、その点は気楽であろう。ただし、都会の場合、住居がかなり離れたところに住んでいて、すぐに駆け付けられない場合もある。扁桃摘出術ができる環境にある病院かどうかで、手術の対応もかなり変わってくるだろう。