小児を知ると、大人の病気もわかる
小児科の領域ではごくありふれた病気であるのに、大人がかかるのは珍しいと言う病気がけっこうある。昔の内科医はたいてい小児も診察していたため、小児を通じて多くの病気を経験する。ところが、今の内科医は小児をみない医師のほうが多く、小児のごくありふれた病気を知らなかったりする。耳鼻科医と言うのは、口の中の病変であれば、大人も子供もみるため、この分野はどちらもけっこう経験ずみである。
溶連菌感染症という病気がある。子供には本当にありふれた病気で、小児科医は毎日のように見ているかもしれない。しかし、内科の医師は、本当に溶連菌で真っ赤になった咽頭所見をみないのかもしれない。また、溶連菌の迅速検査を行っている内科医というのにはあまりお目にかからない。溶連菌感染症とはどんなものなのか、あまり知らないようである。
扁桃腺に膿栓がついた大人の人が来た。口腔内には多数の口内炎。唇の裏にも多くの口内炎がある。
扁桃だけをみれば、たしかに溶連菌も疑うのかもしれない。ただ、そのわりには粘膜の発赤がない。そしてなによりも、このような口内炎は溶連菌ではないだろう。内科を受診し、溶連菌検査をしたが陰性だったと、抗生剤がだされて当院を受診してきた。このような多発性の口内炎はまずウイルス感染である。扁桃にも所見があることより、おそらくヘルペスの感染であろう。病名で言うならば、「ヘルペス性歯肉口内炎」とでも言おうか、単純ヘルペスによる初感染である。おそらく小児科医であればまずそれを疑うであろう。子どもに少なからずある病気だからだ。唇のところにできるヘルペスの再感染は、よくみる病気であるが、このようなヘルペスになると、たぶん見たことがないのであろう。
典型的な手足口病、ヘルパンギーナ、おたふくかぜなどを見逃しているケースもよく目にする。どれも小児科医にとってはごくありふれた病気である。大人がかかると内科を受診するため、見のがしが多くなる。このような病気を見たことがない医者が多いようだ。子供から大人もうつる病気であるから、幅広く病気を見抜く目をもってほしいと思う。