貧血と脳貧血の違いがわかりますか?
「貧血で倒れたことがあります。」
このような経験がある方も多いと思います。貧血という言葉がくせもので、医者がいう貧血とは血液中の赤血球が不足していることを意味します。一番多いのは、鉄欠乏貧血です。赤血球を作る材料(鉄)が不足しているために、血液の流出(女性の場合は月経、高齢者の場合はがんだったりします)に赤血球の製造が間に合わなくなった状態です。医者は、貧血というと、これを思い浮かべます。
一方で、脳貧血というものがあります。これは上記貧血とはまったく違うものなのです。簡単に言えば、脳に血液がいかなくなって酸素欠乏状況になったものです。目の前が暗くなり、いきなり倒れるというのが典型的な所見です。意識がなくなり倒れた状況を失神(しっしん)と呼びます。ときにめまいがでるので、めまいがすると受診する場合もあります。女子の、特に思春期ぐらいに多く、その年代でこのような症状がでれば脳貧血を疑います。
脳貧血という言葉は、一般的には使われていても、医学の専門分野ではまず使いません。代わりの言葉としては、起立性低血圧という言葉で言われることが多いように思います。急にたちあがったとき、血圧の調節がおいつかなくなり、一時的に脳の虚血(血液不足)になり、具合が悪くなるものです。このような患者が、めまいと判断されて、耳鼻咽喉科にまわされてくる場合が多いのです。脳貧血そのものはごくありふれた病気だと思うのですが、内科の医師がまずこれを知りません。めまいなら、耳鼻科に行ってとこちらにまわされてきます。
体がフラフラすると受診した女子高生。近くの内科受診し、血液検査をしたら貧血はなし、耳鼻科に行けと言われて、当院受診しました。女子高生という段階で、起立性低血圧を疑いました。最初の内科では血液検査をしたけれど、そもそも血圧を測っていないらしいのです。こちらではすぐにシェロングテストを行いました。体を横にした状態で血圧を測り、立ち上がった時に血圧がどう変動するかをみていく検査です。血圧を測るだけの検査ですから、血圧計さえあれば、どこでもできる検査です。この患者さんは、立ち上がって5分もすると、真っ青になり倒れてしまいました。起立性低血圧で間違いありません。
最近このような脳貧血を起こすような病気を、起立性調節障害(OD)と呼ばれることが多くなりました。この病気は小児科の医師ならばみな知っている病気です。ところが、内科の医師が知らないのです。本当に昔からよくある病気なんですけどね。ですから、めまいと判断され、耳鼻科に行けと言われてくる。耳鼻科で血圧測って起立性調節障害。まったくの逆だろうと思うのですが、患者さんがまわされてくるのだからしかたありません。