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耳が聞こえなければ耳鳴はない

[2018.01.22]

当院には、全ろう(すなわち、聴力がほとんどない)の人が数多く受診している。全ろうに限って言えば、日本一数多く通っている医療機関と言ってもいいかもしれない。

一方、全ろうの人など、年に1人も受診しない耳鼻咽喉かもあるかもしれない。そのようなところの耳鼻科医は、全ろうとは何なのかもわかっていなかったりする。ろう者の苦情の中に、「耳鼻科医なのに難聴のことがまったくわかっていない。」と言われると、同業者として頭が痛いものである。

これはとても多い誤解だが、「全ろうなのの、耳鳴がするのはおかしい。」。このように自信をもって言い切る耳鼻科医が少なくない。当の本人は耳鳴を苦痛で受診するわけだが、その耳鳴そのものを否定されてしまえば、なんとも気分を害するのはよく理解できる。

まず、二つの間違いが存在している。

1)全ろうは、聴力が残っていないわけではない。

医学的に全ろうと言うのは、平均聴力が100㏈以上を言う。耳鼻科医ならよく知っているはずだが、平均聴力とは、500.1000.2000Hzの平均聴力である。ようするにそれ以外の周波数領域はけっこう聴力が残っている人も多い。特に低音部に聴力が残っていて、補聴器を活用している人も多いのだ。また、平均聴力は100㏈以上であれば、全ろうという概念になる。110~120㏈の音が聞こえるとう人もけっこういる。全ろうと言っても全く聞こえていないわけではないのだ。

2)次の誤解は、聴力が残っていなくても、耳鳴はする

耳鳴そのものの出現に、聴力は関係ないのだ。耳鳴そのものは脳の神経の興奮ではないかと言われている。決して聴力に依存するものではない。僕の知り合いのろう者に聞いてみても、かなりの人が耳鳴を訴える。ただ、幼少時よりずっと耳鳴が続いているため、慣れてしまって苦痛に思わない人も多いのだ。それがひどくなるのは、ストレスなどの別の要因がくわわっている場合も多い。

耳鼻科医と言っても、このような難聴、耳鳴などのメカニズムを十分に理解していない人は多い。耳鼻科医の目から見ればそんなものだろうと思う。医者は何でも知っているかのように思うのが、そもそも間違いなのだ。

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